№198 食料品の消費税減税の批評
2025.08.02
令和7年3月に成立した令和7年度予算をみると、国の一般会計の総額は約115兆円で、歳出の3分の1を占める「社会保障」は38.3兆円(前年度比5,745億円増)となっています(財務省HP参照)。

ここでいう「社会保障」38.3兆円とは、年間の社会保障給付費140.7兆円のうち被保険者や事業主が負担する保険料82.2兆円等を差し引いた公費負担55.3兆円のうち、地方公共団体が負担する17.2兆円以外の国の負担額をいいます(厚生労働省HP参照)。
一方、歳入をみると、国税収入77.8兆円のうち消費税は24.9兆円(前年度比1兆円増)と見込まれています。
つまり、国が負担する社会保障費38.3兆円の財源として消費税を目的税化すると、現行税率10%の消費税では年間約13.4兆円の財源が不足することになります。地方消費税も含めると(総務省HP参照)、国と地方を合わせて約24.2兆円の財源不足となります。これは消費税率に換算すると約5.6%分の増税に該当します。
これに関し、消費税を増税(=消費税率をアップ)して、あくまで消費税の社会保障目的税化を維持すべきとする考え方と、それ以外の方法、例えば所得税等ほかの税で補うという考え方が対立しますが、いずれの場合も消費税を減税すれば、ますます財源が足らなくなるので、めぐりめぐって、国債費が増加することになります。
2025年7月の第27回参議院議員通常選挙以降、食料品の消費税減税に関しての質問が多いので、今回は、食料品の軽減税率又はゼロ税率について考察し、最後に私見を述べさせていただきます。
- 食料品の税率軽減、又はゼロ税率にするメリット
食料品の消費税率が下がれば、支払う総額が安くなるので家計費の負担が軽減されます。 特に、食料品の支出割合が高い低所得層にとってメリットは大きくなります。
また、税率が下がることで消費者にとって購入する価格が安くなり、消費意欲が増すことから、事業者の売上増加につながり、企業の利益を押し上げる効果が期待されます。
そして、企業業績が良くなれば、雇用の安定や賃金の上昇にも波及し、減税は一時的な効果にとどまらず、景気の底上げにつながる可能性があります。
- 食料品の税率を軽減、又はゼロ税率にすることの問題
まず、食料品の範囲をどうするかの問題があります。
食料品といっても、生鮮野菜や鮮魚から高級食材まで価格差があり、街の定食屋さんから高級料亭まで事業主の範囲も広く、どこまでを軽減の対象とするか困難な作業となります。
ある政党は、食料品の税率を5%にすると公約していますが、これには問題があります。
例えば、「弁当」の製造業者は、食材以外の箱・箸・包装紙・光熱費・運賃などには標準税率10%が適用されるので、税率5%の売上に対する製造原価の損失を補うために「弁当」の販売価格を値上げすることになります。
消費者は、購入する際の消費税が5%軽減されたとしても、値上げにより購入価格も上昇するので、5%安く購入できるわけではありません。
また、食料品をゼロ税率にするという政党もあります。
イギリスで導入されたゼロ税率の仕組みは、食料品の売上げを非課税にするとともに、それに対応する仕入れ税額控除を認めることにより、事業者に消費税負担が一切生じないようにする仕組みです。
この仕組みでは、仕入れ税額控除分の還付を受ける食料品関係の事業者と、それ以外の事業者の間で不平等・不公平が生じるという社会的な問題も生じることになります。
そしてなによりも、食料品の税率を軽減又はゼロ税率にすれば、高所得者も同じように食料品を購入するので、負担軽減の絶対額でみれば高所得層の恩恵の方が大きいという根本的欠陥が指摘されています(森信茂樹『日本の税制 何が問題か』(岩波書店、2010))。
- まとめと私見
2025年1月現在、EU諸国の消費税の標準税率は20%前後、これに対して日本の標準税率は10%となっています。
EU主要国の標準税率の推移をみると(財務省資料参照)、
イギリスの場合、1973年導入時は8%でしたが1979年に15%、1991年に17.5%、2011年以降は20%と引き上げられてきました。
ドイツは、1968年導入時10%から、1993年に15%、2007年以降は19%と引き上げられてきました。
スウェーデンは、1969年導入時11%から、1979年に20%、1992年以降は25%と引き上げられてきました。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/103.pdf
これらの国は、いずれも複数の軽減税率を導入しており、食料品に関してみると、イギリスはゼロ税率、ドイツは7%、スウェーデンは12%となっています。
以上のデータからわかるように、食料品の消費税率を軽減すると標準税率が大幅に引き上げられるということです。日本の消費税率もEU諸国と同様の結果になるでしょう。
私見としては、
①景気対策として食料品の消費税を減税しても、景気浮揚のインパクトは少ない。逆に、仕入れ税額控除や還付申請等が複雑になり、事業者の事務作業が増えるだけである。
②低所得層の家計費負担を軽減するために食料品の消費税を減税しても、高所得層の恩恵の方が大きくなるだけである。それよりも、低所得層に給付金を支給する方が効果的である。
③消費税の減税を議論するだけでなく、社会保障費のうち、特に医療費支出の抑制を考えるべきである。例えば、診療報酬制度の改正、医療費の患者負担割合の改定、医薬品の薬価算定の改定、予防医療の拡充など。
以上の理由で、食料品の消費税減税には批判的な立場です。仮に消費税の減税をするときは、複数税率(標準税率+軽減税率)を廃止して2020年以前のような単一税率(標準税率のみ)に戻し、食料品に限定せず全ての商品やサービスに対して一律に減税する方法が最も公平で、かつ、景気の底上げにつながると考えます。
また、マイナンバーカードが普及した現在においては、給付付き税額控除を導入し、消費税の負担分を確定申告時に所得税から控除する方法も検討すべきと考えます。給付付き税額控除についてはブログ№200で詳述します。
(完)